香文化史研究成果要点
現在出回っている香関係の情報は、およそ昔からの口伝に基づくものであり、最新研究は反映されていません。それは香文化の研究は始まって間もなく、さらに研究者が少ないことにも起因しています。研究成果は主に論文、研究書に留まっている状態ですので、一般向けに簡便に紹介されるまでにはまだ時間がかかるかもしれません。ここでは、拙稿(千葉)で明らかにした項目に関して要点のみ掲載しておきます。
1.中国古代における各地の香草は、漢武帝時代に長安周辺に移植された。
2.白居易の「李夫人」詩の「反魂香」の典拠元、モデルの香の考察。
3.鑑真和上が「合香の術をもたらした」とされているが、近年発見された文書からは鑑真和上渡来以前に貴族たちは各種香料を購入していたことが判明している。鑑真和上はさらに詳しい合香の技術を伝えた、とするのが史実。
4.中国では「香印」は粉末の香を型に入れて先端から焚く香品であり、その後、「印香」とも呼ばれ、宋代には「篆香」「香篆」呼ばれるようになる。日本の正倉院宝物の「香印盤」は香印を焚く香道具。
5.日本の「印香」は昔の「香印」ではなく、「香餅」を日本でアレンジしたタイプと考察。
6.「香餅」には発達段階があり、先ず「香炭団」として誕生し、長期間の工夫を経て、香り、形、色、弾力、模様、艶がある香料などを配合した香品としての香餅となる。
7.「捲灰壽帯香」は中国の明代で発明された灰を捲く特殊な線香と解明。その後、琉球王国でも開発成功し略称の「壽帯香」として200年間、江戸城へ献上された。しかし、その後製造は途絶え、造る技術は消滅。尾張でも同じタイプの灰を捲く線香の開発に成功し「捲灰壽帯香」としてつい最近まで販売されていた。材料はそれぞれ異なる。
8. 『薫集類抄』には、中国由来の香方が掲載されていることを論証。
9.サフラン(鬱金香・鬱金)とショウガ科ウコン(鬱金)の問題は非常に複雑。以下に要点のみ掲載。
★ショウガ科ウコン(鬱金)はサフラン(鬱金香・鬱金)の代用品と論証。
★平安時代は「うこん」を正しく理解しておらず、サフランとショウガ科ウコンが混在。
★室町時代以降、鬱金=ショウガ科ウコンとして一対一対応となる。
★鬱金の微量配合はサフラン。
★熟鬱金にはサフランを使う真正タイプと複数の香料を調合する代用タイプがある。
★熟鬱金の微量配合はサフランを使う真正タイプ。
10.チューリップ問題
鬱金香の元祖はサフランであるが、その後、ショウガ科ウコンが鬱金と命名されたことから番紅花などの別名でも呼ばれ、その後チューリップの名称として再利用された。原種のューリップはサフランに似ている。
★李白の「客中行」の「蘭陵美酒鬱金香」の鬱金香はサフランである。